言霊は無限に連なる数珠となり

SUZU OHANASHI STATION

2023年秋、珠洲市を中心に「奥能登国際芸術祭」が行われました。
標題の歓迎の文字を大きな看板にして、旧珠洲駅のホームにたくさんの来場者を迎えました。
珠洲市は人口が1万人を切っているとのことですが、期間中5万人もの人が集まったそうです。
わたくしなどは、動画でその様子を見るだけですが、それでもこの芸術祭の熱気が伝わってきます。

通常、大規模なイベントは、様々な情報を送る側と受けとる側が相対することがほとんどですが、奥能登国際芸術祭は、町全体がひとつのイベント会場であり、来場者も積極的に楽しいイベントに参加する様子を見ることができました。

日常、珠洲市民の人たちが生活し、何気ない雑談をする場が、イベントの会場になっている感じです。
「小さい忘れもの美術館」は旧飯田駅という、小さな駅の待合室がそのまま、飾り気なく、ひとつのアートになっています。

未来行き待合室の時刻表

昭和の時代の香りがするような、茶色のベンチも懐かしく感じます。小さな忘れものというのですから、電車の乗客が忘れていったものを展示しているんだと思われます。傘、うちわ、Tシャツや、トランクスまで。目を引くのが、電車の時刻表です。駆け足で電車に飛び乗るようにした人、友人を名残惜しく見送る人、駅は発着の間、数分間のドラマみたいですよね。小さな町の待合室から、大きな希望を抱いて、旧能登線に乗った人も多いと思います。市民参加、来場者も祭典に一役、日常の一コマがそのまま会場に。いい芸術祭だと思います。

言霊は無限に連なる数珠となり

冒頭の歓迎のぬいぐるみ看板が人々を迎える、旧珠洲駅。PR動画の駅員扮するスタッフの帽子には、旧能登鉄道時代に活躍したと思われる、「急行能登路」のヘッドマークが、珠洲御噺駅の名と共に描かれています。本当に、珠洲の人々は珠洲が好きなんだなと分かります。

このおはなしの駅、珠洲市からたくさんの「いちまいばなし」が生まれました。会場は和気あいあい、時々、行き先不明のバス旅行などという企画も聞きますが、予測不能な展開を皆さん、楽しみにしている様子が伝わります。司会者から、マイクを向けられ、ようやくひねり出した珍回答、思わずうまい!と思わせる名回答、なかなか言葉が見つからず、しばしの沈黙もご愛嬌。でも即興って、すごい力がありますよね。一言一言が、鮮度抜群、産地直送、笑いの渦を巻き起こし、大爆笑も数えきれないほど。

2023奥能登国際芸術祭は開催期間は、かなりの長期間行われました。
アーティストや行政の方たち、スタッフやボランティアの人たち、多くの人々によって運営されました。
とても印象的な言葉がありました。

“古来奥能登は、大陸からの文化や織物、焼き物などを継承してきた。北前船も盛んに寄港し、様々な産物と共に、各地の文化の交流に大きな役割を果たしてきた。奥能登の芸術祭はさいはての芸術祭かもしれないが、最先端の芸術祭でもあるんだ”

奥能登はもちろん、能登半島地震からの復興はまだまだ道半ば。あまりの甚大な被害に、軽々しい言葉は控えたく思います。ただ、駅の待合室の日常の写真や、一枚話の逸話は、復興に向けて大きな力になると信じます。