梅ほのか春小走りに泉岳寺
討ち入りに男装義士がと江戸雀 | 右衛門七の母が川面に大蓮寺 |
空っ風止んで微かに陣太鼓 | |
路銀尽く伊勢参宮に他生の縁 | 胸明かす今生別れ討ち入りを |
風雪の四十七士を岩に彫る | |
古武道の気合みなぎる長屋門 | 自衛の剣馬庭念流万民に |
ㇵの字かな赤穂浪士の足運び | |
宵越しの銭は持たぬと啖呵切る | 升に塩ありゃあ肴を荒らさねえ |
赤穂塩美味えの美味くねえのって | |
塩田の風紋ささめく瀬戸の海 | 潮騒に浜男浜子の手が躍る |
白ダイヤ藩札飛び交う赤穂藩 | |
火の軍勢振袖火事は龍の口 | 屋根の上大名火消しの血がたぎる |
飛ぶ火矢に眼下の小屋が飲み込まれ | 飛んで消せ!捨て身の火消しは武の誉れ |
義経の鵯越の逆落とし | 江戸の衆浅野の火消しを語り継ぎ |
春霞伝送屋敷を偲ぶビル | 京香る朝廷勅使のぼかし染め |
世が世なら奉行所見附に畏まる | |
元禄に古式ゆかしく大嘗祭 | 復興の賀茂の祭に女人列 |
武の威光勅使を迎え弥増して | |
ふたたびの勅使饗応春弥生 | 家の誉れ見事果たさん大役を |
高家職吉良殿薫陶賜りて | |
霹靂の白刃一閃大廊下 | 怒髪天遺恨の刃が眉間割り |
覚えあろう怒りの二の太刀背に達し | |
浅野殿殿中でござるお控えあれ | 放されよ吉良を討ちたき意趣があり |
せめて後あと一太刀を浴びせたし | |
刃傷は乱心非ず遺恨なり | この上はいかなるご処分慎んで |
願わくば式服烏帽子を直したし | |
切腹じゃ!鶴の一声詮議無く | 黄金律喧嘩は双方両成敗 |
元禄に禍根残した片手落ち | |
五万石家臣離散にほぞを噛む | 目で交わす近習片岡暇乞い |
切腹は武士の面目謝辞残し | 散り際に春を一瞥辞世詠む |
江戸屋敷騒動せずに引き渡せ | 早籠が飛ぶが如くに悲報乗せ |
木挽町浅野家再興夢の跡 | |
速やかに赤穂の城地を明け渡せ | 汗滲む藩札正貨に六分換え |
詫びつつも四民の財を隔てなく | 籠城か家再興か仇討ちか |
無手で勝て雲と遊べや山科の | 飛車角も一歩千金あらばこそ |
歩が成ってと金になれば赤い鬼 | |
吉良転居焦り募らす熱き義士 | 安兵衛よ下手な大工は事急ぐ |
昼行灯夜道も照らす常夜灯 | |
元服の神文誓詞に悔いなくも | 家離散母の布団に涙落つ |
兄許せ年端もいかぬ幼児よ | |
名を主税齢十五の若武者が | 逸る江戸まずは一意と諫めつつ |
振る舞いは父の名代余すほど | 草鞋脱ぐ国の起点の日本橋 |
右衛門七よ父の代わりに仇を討て | 身につけよ父の形代腹巻ぞ |
血判の花押あたかも火山列 | |
縁頼り母妹よ息災に | |
手形なく関所で無情に道裂かれ | 知らしめん天寿まっとう母の爾後 |
義の安兵衛刀が錆びるもう待てぬ | 大藩の庇護を受ければそれまでよ |
定めかな高田馬場と二度嵐 | |
家再興一縷の望みかけつつも | 木挽町浅野本家にお預けに |
残された道こそ本望天の時 | 退路絶つ神文誓詞を今一度 |
家忘れ命も捨てて討ち損じ | 不調法天下のお仕置き恨みなし |
さりとても主君の仇は捨て置けず | |
ただ一念殿の無念を晴らすのみ | いたずらに前後見合わせ臆病者 |
親族に及ぶ連座のお覚悟を | |
かれこれとお嘆きなさるな母上よ | 御身にも時の墓参はご養生 |
暇乞い筆にまかせて遺します | そもじさま 大高源吾 |
ひとしずく大河ここから分水嶺 | 戦国の堀切の技利根東遷 |
鬨の声水の都に河岸の声 | |
大笑い落とし噺が空に抜け | 髪結い屋手よりも口がよく動き |
ここだけの話がいつか大音量 | 富士講の雲をも凌ぐ江戸の粋 |
ご隠居さん見たかい辻の御触書 | 犬が来りゃこっちが避けて歩くのかい |
ひれえ道狭くするんじゃ逆しまだい | |
蚊が刺しゃあお粗末様って言うのかい | ほんとかい間口でいくらって憐れみ税 |
べらぼうめどっちが憐れだお犬様 | 生類はここにもいらあ腹の虫 |
まあ待ちな捨て子はだめってのいかったなあ | |
銭湯は三保の松原富士の山 | いい湯だねえ寿命が伸びらい極楽だい |
ありがてえ富士山あっての日本だねえ | |
だけどもよ貨幣改鋳ってなんなんだい | 近頃のお足にゃ羽が生えてらあ |
九官鳥お主もワルよとひもすがら | ご隠居さんやだよ富士さんおこらしちゃ |
離縁状悲しみ滲む揃わぬ字 | 美しい海と山河に目がかすむ |
内蔵助責めず語らず去る同志 | |
一里塚本懐一里手繰り寄せ | 神住まう箱根に曽我の墓詣で |
得べしもの身を捨ててこそ手の内に | 元禄に山が動くや裾野まで |
柿の実も耐えに耐えたり秋の雲 | 川風や浪士らじっと草になり |
早や師走半蔵門の影長し | |
吉良屋敷千畳敷のなお五倍 | 守り手は攻め手圧倒ほぼ三倍 |
絵図面はまさに平城総構え | 払暁にいざ討ち入りへ四十七 |
恋女房苦楽歩いて箱根山 | 歌合せ褒めてけなして口喧嘩 |
面白き遊びをそなたと次の世も | 先急ぐ振りして伏せた恋うる歌 |
拠って立つ君なき臣が身を潜め | 腕を撫す今や遅しと忠義の士 |
雪明かり目指すは本所松坂町 | 江戸表辻番誰何のひとつだに |
追手には刃交えよ墓所途上 | お上には覚悟の推参披歴せよ |
本懐を遂げた暁笛を吹け | 昇る日と殿の御霊を慰めん |
黒小袖浅黄の股引火事かぶと | 振袖の修羅場を潜った火事装束 |
盛装に火消し三代雪を踏む | |
隊二手采配振られ西東 | 表門梯子二本を高々と |
裏門を満身掛矢で打ち破る | 屋根の雪滑り落ちるも力水 |
いかずちや耳をつんざく大喚声 | 朝まだき人の声ではあるまいぞ |
夢うつつ寡兵たちまち万の兵 | |
鎹で長屋の兵を封じ込め | 太平の世こそ護らん門と意地 |
有明の月が隠れて白むまで | 打ち揃い大願成就を分かち合え |
討ち入りのお裁きひとえに公平に | 刃傷は家来一同畏れ入り |
さりながら主君の無念は耐えがたし | |
意趣を継ぐ吉良家推参ただひとつ | 君父の讐共に天をいただかず |
当口上何卒お上に家来死後 | 吉良邸に家来口上天に向け |
裏門を破るも屋敷は闇の中 | 機を捉え菓子蝋燭を松明に |
武家火消し火攻めはゆめゆめなかるべし | 一の太刀備えの大弓切り払い |
雪の上切り結びつつ池に落ち | 危うくも敵逃げ候助けられ |
水の神恐れるもののなき身にも | |
古希近しされど気概に満ち溢れ | ひとり突き老いて罪をと独りごつ |
義とはいえ倒した敵に瞑目す | |
故あって吉良家押し込む仕儀となり | もののふは相身互い身お構いなく |
騒動に及ぶも何卒見逃され | |
ご家来の口上確と心得た | 何びとも闖入許さず我が屋敷 |
相照らす月の明かりに高提灯 | 一を聞き隣家の旗本十を知る |
上越に攻め込む風雪剣の冴え | 念流が安兵衛心の琴線に |
西上州利根川お連れに中山道 | |
剣の才熱き心で江戸表 | 情厚く高田馬場で片肌に |
助太刀の足が早けりゃ手も早い | 嫁も来た一躍江戸の人気者 |
時が過ぎ同志がひとりまたひとり | 赤穂江戸活断層が横たわり |
大地割れ義盟も裂けて決別か | |
内蔵助枯れ木の山でなかりせば | 快き死もあるべしと安兵衛に |
来るべき噴火を隠す裾野かな | 天からの陣中見舞いぞ牡丹雪 |
玉を挙げ喧嘩安兵衛幕引かん | 的ひとつ首級のほかに遺恨なし |
剣豪はむやみに討たぬと念じたか | 白雪や晴れて道連れ天界へ |
Vロード京都円山隅田川 | 屋形船舳先に珍客都鳥 |
星屑や一人に一個貰えぬか | |
前祝い月も飛び入り決起の宴 | トイチ殿本所に留まる日はいつぞ |
句や茶の湯あきんども良し草となれ | 茶碗からポロリこぼれた茶会の日 |
江戸前の真砂に探す金の粒 | 茶の香り茶柱立つ日をそれとなく |
言霊は運の扉を押し開く | |
表門源吾一番宙を飛ぶ | 長老を長刀立て掛け抱き下ろし |
句に長けて句では終わらぬ力業 | 仮名手本しわぶきひとつ無き満座 |
龍と虎光る稲妻名人戦 | 小太刀の歩垂れ歩継ぎ歩をさりげなく |
禁じ手の一歩も悔し打ち歩詰め | |
町の歩が浪士助ける絶妙手 | 敵陣の駒の配置が手の内に |
投了へ赤いと金が玉詰ます | |
恋初めの熱は冷ませぬ川の風 | 手弱女の香り微かに袖が触れ |
江戸小町小粋な仕草の眩しさよ | |
堂々の十文字槍金右衛門 | 表門ここは通さぬ仁王立ち |
槍穂先月も加勢し黄金色 | |
陸奥へ赤穂で育った製塩法 | 驚きの毛管現象塩の国 |
白銀が遥々南三陸へ | 拙者には裃合わぬと暇乞い |
塩田が城の曲輪のごとく見え | 瀬戸の海水軍消えて塩廻船 |
数右衛門錦を飾る浜奉行 | |
戦国の遺風漂う傾奇者 | 乱行も閉門解かれ帰参なり |
馳せ参じ殿の墓前で名を記す | ひとつ屋根故郷の空無辺なり |
庭守備も堪えきれずに邸内へ | これぞ殺陣鬼神の如し数右衛門 |
不忠の臣返上いたすササラの剣 | |
長丁場ロジスティクスは平間村 | 内蔵助ここより同志に指図する |
古刹より討ち入り訓令十ヶ条 | |
春帆の俳号そのまま四季跨ぎ | 助右衛門崛起の要をよく果たす |
いざ行かん九十九里経てあと一里 | しなる棹平間の渡しに稲の波 |
仇を討て母の小袖に腕通し | 編み出した接近戦の槍振るう |
闇を裂く大軍装う大音声 | |
決まり手は左おっつけ右喉輪 | 速攻の屋敷の廊下は電車道 |
見事なり怒涛の寄りは瞬の殺 | 紙相撲四股名は堂々助右衛門 |
虎千里波濤を越えて日の本へ | 帰化なって髻凛々しく大和武士 |
二言なし槍をも飲まん剛の者 | |
図らずも当主二代と遭遇し | 唯七のマグマ火を噴き天を染め |
本懐を遂げて血潮は海に帰す | 8Kも屏風の虎に青くなり |
将軍家系譜に連なる吉良高家 | 華麗なる高家肝煎り憚るも |
この夜討ち前世からの定めかな | ああ祖国漢詩伝えよ大陸へ |
十郎左殿に小姓と仕えつつ | 鼓打ち書をよく学び能を舞う |
ヒラヒラと座敷に珍客白い蝶 | いつの日かふくさに仕舞う琴の爪 |
庭先で果てたご無念いかばかり | お恨みはこの十郎左命かけ |
君ひとり殿の墓前で髻切る | 満願を共に叶えん琴の爪 |
漆黒は我らが味方万の兵 | 十郎左菓子蝋燭で闇照らす |
雪の上遂に小笛が鳴り響き | 背の傷に慟哭一気に堰を切る |
朝まだき振袖火事の無縁寺 | 火の気絶つ伊達に非ずや火事装束 |
義挙の報江戸市中沸き人の波 | |
吉右衛門慶事知らせよ国許へ | 必ずや忠左衛門様違背なく |
上杉の追っ手に備えよ両国橋 | 隅田川風に光れり橋の句碑 |
負の連鎖罷り成らぬと天の声 | 一之橋参るぞ最後の大仕事 |
火も避けるお助け橋や新大橋 | 富士山の神々しさよ萬年橋 |
関八州桟敷席かな永代橋 | |
甘酒が五臓六腑にちくま味噌 | |
湊橋善男善女が山王祭 | 安兵衛と嫁がそぞろに日枝神社 |
鉄砲洲御国自慢の樽廻船 | 我が誉れ湯茶を振る舞う町の衆 |
主なき築地に浅野上屋敷 | こみ上げる涙が頬に止めどなく |
墓一基風ひとしきり本願寺 | 新橋に高嶺の花が触れるほど |
日本髪火事と喧嘩は江戸の華 | 義士二人かもめ一声自訴に向く |
汐留に初志の記念碑ゼロポスト | |
口上書紙背に異議の申し立て | 冬晴れに洗足の井戸心地好し |
十郎左病母に別れを促され | 固辞しつつ芝大神宮去りがたし |
流人船連座及ぶな金杉橋 | |
御上にも慈悲はあろうぞ健やかに | 一石を水の都に投じたり |
隕石が江戸に落ちるや今まさに | 両雄が居住まい正し対座する |
小異捨て些末な駆け引き無用なり | |
新日本百万の民礎に | 江戸開城無血で遂げて天仰ぐ |
時跨ぎ田町に交わる義士と志士 | 円かなり恩讐越えて維新の碑 |
札の辻大義まっとう夢非ず | 敬虔な信徒に黙礼殉難碑 |
旅の背を高輪大木戸見えぬまで | 雪化粧静寂の寺義士を待つ |
天佑の曙光一筋泉岳寺 | 御首級を捧げ嗚咽が止めどなく |
地に降れば天に昇らん春の雪 | |
このたびの徒党狼藉不届きなり | 上使役全員切腹言い渡す |
内蔵助武士の本望謝辞返す | |
世に問うた堂々公然清々し | 旅支度今際の際に山動き |
江戸は春されど散る花惜しみつつ | 図らずも赤穂の桜が目に浮かび |
吉良当主領地召し上げ閉門じゃ | 目が潤み殿もようやく安らかに |
成し遂げた忠烈の跡元のまま | 儀式の血清めは要らぬ守り神 |
古来より為せば成るとはいうものの | 天があり地があり人が事を成し |
戒名に等しく刃と剣の文字 | いにしえに剣刃上を走るとか |
今はただ刀を置いて休まれよ | 梅ほのか春小走りに泉岳寺 |